京都地方裁判所 昭和49年(わ)176号 判決 1981年3月30日
裁判所書記官
三浦茂雄
本籍
京都市上京区御前通下立売上る三丁目西上之町二五四番地
住居
同市右京区太秦安井馬塚町一六番地の一
会社役員
藤井信央
大正一三年一月一日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小野哲出席のうえ審理して次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月及び罰金一五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、京都市右京区太秦安井馬塚町一六番地の一において、藤井藤商店の商号を使用し、京染呉服製造卸売業を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て
第一 昭和四五年分の総所得金額は二三五四万五一〇六円で、これに対する所得税額は一一一一万四〇〇円であったのにかかわらず、公表経理上売上金額の一部を除外し、これを架空名義の簿外預金にするほか申告に際しては実際の取引金額と関係なく適宜売上金額、仕入金額ならびに経費等の一部を除外するなどの不正な方法を用いて所得を秘匿したうえ、昭和四六年三月一五日同市右京区西院上花田町所在の所轄右京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額は一七一万一〇九七円で、これに対する所得税額は所得税法に即した計算によれば一九万七二〇〇円となる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正当な所得税額と申告に基づく所得税額との差額一〇九一万三二〇〇円を免れ、
第二 昭和四六年分の総所得金額は三九七四万八六八六円で、これに対する所得税額は二〇二三万五三〇〇円であったのにかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿したうえ、昭和四七年三月八日前記右京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額は一八六万七六八四円で、これに対する所得税額は一六万五九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の正当な所得税額と申告にかかる所得税額との差額二〇〇六万九四〇〇円を免れ、
第三 昭和四七年分の総所得金額は五七九〇万四五〇四円で、これに対する所得税額は三二〇二万七三〇〇円であったのにかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿したうえ、昭和四八年三月一四日前記右京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額は三九一万九七四八円で、これに対する所得税額は所得税法に則した計算によれば六六万二三〇〇円となる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正当な所得税額と申告に基づく所得税額との差額三一三六万五〇〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 第一回及び第一四回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人に対する受命裁判官の質問調書
一 被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第五五号ないし第七一号)
一 第一三回公判調書中証人廉田久俊の供述部分
一 証人藤井久夫の公判廷における供述
一 第二〇回公判調書中証人藤井久夫の供述部分
一 検察官及び弁護人作成の合意書面(検第七四号)
一 検察事務官作成の「総所得金額及び税額計算について」と題する書面(検第七五号)
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書及び各査察官調査復命書(検第五号、第一五号、第一七号、第二五号ないし第二七号)
判示第一の事実について
一 被告人作成の所得税確定申告書謄本(検第二号)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検第一八号)
判示第二の事実について
一 被告人作成の所得税確定申告書謄本(検第三号)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検第一九号)
判示第三の事実について
一 被告人作成の所得税確定申告書謄本(検第四号)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検第二〇号)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項(なお判示第三については情状により同条二項をも適用する)に該当するところ、いずれも所定刑中、懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金一五〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は、京染呉服製造卸売業を営む被告人が、不況等による将来の事業不振に備えるとともに、病弱である被告人を含め家族の老後の生活に備え財産を蓄積しようとの動機から、昭和四五年以降昭和四七年までの三か年間に所得税合計六二〇〇万円余をほ脱したというもので、そのほ脱税額が多額にのぼるのみならず、そのほ脱税率は各年共約九八ないし九九パーセントに及んでいて、その申告率が極めて低いうえに、その手段も売上金の一部を仮名預金として秘匿したり、申告にあたってはあらかじめ過少な申告額を定め、その額に合わせるべく会計帳簿類を適宜ぬき取るなどの操作を加え、更に査察調査に備え右ぬき取った帳簿類を別の場所に隠匿していることなど犯情は悪質であるが、他方、被告人は本件脱税にかかる所得税、重加算税、延滞税等をすべて納付していること、本件以降は事業を法人組織に改め忠実に納税義務を履行するようになっていることが窺えることなど、反省の態度が認められるうえに、本件により取引先の信用失墜等の社会的制裁も受けていることなどの事情が認められるので、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉田治正 裁判官 安原清蔵 裁判官 水島和男)